【この問題の読み方と学習方法】
このパッセージは、英国の第77代首相・ボリス・ジョンソンによるものです。Johnsonは政治家になる前はジャーナリストでもあり、作家としても活動しています。
出典: “Forget artificial intelligence – in our brave new world, ignorance is bliss.” The Telegraph, January 20, 2023.
語数は820語と問題Ⅰとほぼ同じ分量です。
なお、問8と問10は大手予備校及び新聞社発表の正解と異なるので確認してください。
では設問に答えていきましょう。
問1)著者がこれほど詳細に下線部⑴the Cal-Tech electronic calculatorを論じている理由は何?
正解:c. he thinks it was the first device that enabled us to stop using parts of our brains.
「彼は、これが我々の脳の一部を使用しなくてもよくなる最初の装置だと考えています。」
解説:この発明が特筆すべき技術革新であり、その時代における重要な出来事の一つだからです。この発明は、当時の日常生活における数学的な退屈さを完全に解消し、数学的な問題を解決する際に人々の脳を使う必要性を大幅に減らしました。従来の道具である算盤や計算尺とは異なり、Cal-Tech電子計算機は数学的な作業を完全に自動化し、使用者の思考を解放する画期的な装置でした。そのため、著者はこの発明が当時の社会に与えた影響や革新性を強調するために、このように詳細に述べているのです。
問2)下線部⑵grey matterを置き換える場合、どの語句が適切か?
正解:b. brain cells
解説:「灰白質」とは、一般的に脳組織、特に高次認知機能を担う脳の部位を指します。カルテックの電子計算機のような技術の進歩による精神労働の自由化について論じているこの文章の文脈を考えると、「灰白質」の最適な置き換えは脳に関連する何かです。
問3)下線部(3)This has in recent months led to widespread hand-wringingの「このことは広範囲にわたって心を痛めることにつながった」ことを示しているのは誰か?
正解:d . People who worry that we will stop using our brains the way we are using them now
(現在のように脳を使わなくなることを心配する人々)
段落[6]で著者は、技術の進歩が人間の精神活動に及ぼす潜在的な影響に対する広範な懸念や手のひらを返したような感情について論じています。具体的には、認知タスクを実行するためのテクノロジーへの依存が高まることで、私たちの心の活動や関与が低下するのではないかという懸念についてです。
問4)著者が下線部(4)Wall-Eに言及している理由は…
正解:d. he wants to compare a pessimistic view of the future of the human body with a pessimistic view of the future of the human mind.
(彼は、人間の身体の未来に対する悲観的な見方と、人間の心の未来に対する悲観的な見方を比較したいのである)
段落[7]で著者は、人間がテクノロジーに過度に依存するようになり、肉体的・精神的な劣化につながるという*ディストピア的な未来像を説明するために、映画「ウォール-E」を引用している。この映画では、人間が座りっぱなしで太りすぎ、周囲の世界から切り離され、隔離されたポッドに住み、受動的に娯楽を消費する姿が描かれています。著者が’Wall-E’に言及したのは、映画で描かれた身体的な衰えと、テクノロジーへの過度の依存がもたらす潜在的な精神的衰えを並列させるためだと思います。ここでも映画や小説を知っている人には理解しやすかったことでしょう。
*dystopiaとは理想郷(ユートピア)と逆で、非人道的または恐ろしい社会を指す。一般的には、抑圧的な政府、極度の貧困、または技術の乱用によって引き起こされる未来の暗黒的なビジョンを表す。例えば、ジョージ・オーウェルの「1984年」やオルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」など、多くのディストピア小説が存在する。
問5)空欄 [ 5 A ]~[5 C ] に入る最も適切な語句の組み合わせを選びなさい。
正解:a. [ 5A ] hell, [ 5 B ] optimism, [5C ] hope
この文章では、技術の進歩が人間の精神に及ぼす潜在的な影響について論じている。著者は知的衰退という概念に異議を唱え、人間の知性の未来に希望を抱かせるために古代ギリシャからインスピレーションを得ている。
問6)選択肢を並べかえて4番目と5番目に来る語句を答える。
“ready to take it all in”とならべるので正解:4番目:b. it all 5番目:a. in
解説:準備が整っている(ready)ことから、全て(all)を受け入れる(take in)ことができる、という意味合いを持ちます。
問7)筆者が下線部⑺Fanciful though it may sound “Fanciful though it may soundと言っている理由は?
正解:a . he anticipates criticism of his vision of intellectual life in post-AI society.
(ポストAI社会における知的生活のビジョンに対する批判を予期している)
下線部の「奇想天外に聞こえるかもしれないが」で著者は、ポストAI社会における新しい哲学者の出現についての思弁的なアイデアを紹介している。
Fanciful though it may sound」という表現は、読者によってはこのアイデアが非現実的あるいは突飛に思えるかもしれないことを著者が認めていることを示唆している。
問8)次の記述のうち、記事の内容に即していないものはどれか?
正解:d . The first electronic calculator invented in 1967 was very different from an abacus.
(1967年に発明された最初の電子計算機は、そろばんとは全く異なるものであった)
解説:この文章では、技術の進歩が人間の心に及ぼす潜在的な影響について論じており、機械が日常的な精神作業を行うことで、我々の脳は思考停止に陥る可能性があることを示唆している。アルゴリズム革命がもたらす浄化作用について言及し、知的生活における音とノイズの比率をより合理的なものに導いている。また、ポストAI社会における新たな哲学者の出現についても推測している。よって、記事の内容に沿わない記述はd.になる。
問9)筆者の意見を最もよく反映している選択肢は?
正解:c. The author thinks that AI will enable us to exercise our intellectual capacities more fully.
「著者は、AIによって我々は知的能力をより十分に発揮できるようになると考えている」
解説:記事全体を通して、筆者はAIの進歩が人間の知的能力をより完全に発揮させる可能性があると述べています。彼は、AIの出現が知識の浄化を促し、人々がより創造的になり、新しい知識や哲学者が登場する可能性があると信じています。
問10)この記事に最もふさわしいタイトルは何ですか?
正解:a . Will our brains be able to relax? (私たちの脳はリラックスできるのだろうか?)
解説:技術の進歩がもたらす潜在的な影響、アルゴリズム革命がもたらす浄化作用、そして人間の知性の未来に対する著者の希望を探るという記事の包括的なテーマを考慮すると、最も適切なタイトルは a. になる。
*この記事では、技術革新、特に計算の領域における技術革新が、人間の認知に与えた変革的な影響について論じています。電子計算機、GPSナビゲーション、スペルチェック・ソフトウェア、グーグルのような検索エンジンの発明が、個人の認知的負担を軽減したことを強調しています。しかし、テクノロジーへの過度の依存がもたらす潜在的な結果については、精神能力の萎縮や、固有の知識や知恵の喪失といった懸念が提起されています。こうした懸念にもかかわらず、著者は楽観的であり続け、現代の頭脳の知的潜在能力と、知識の蓄積がはるかに乏しい時代に繁栄した古代の思想家たちとの類似性を描いています。この文章は、雑多な仕事から頭を切り離すことで、人類の知識と知恵の充実に貢献できる新たな知的巨人の出現への道が開けるかもしれないという考えで締めくくられていて、Boris Johnsonの考え方をよく伝えています。入試問題ではありますが、こういう話題を日ごろから議論したり、考えてみてはいかがですか?